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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)155号 判決

大阪府東大阪市長田西5丁目80番地

両事件原告

株式会社 レイズ

代表者代表取締役

斯波眞澄

静岡県磐田市上岡田439番地の5

両事件原告

遠菱アルミホイール株式会社

代表者代表取締役

鈴木順一

両名訴訟代理人弁理士

江口俊夫

ドイツ連邦共和国デー-77761 シルタッハ ヴェルシュドルフ 220

両事件被告

ベーベーエス クラフト ファールツオイグテクニク アクチエンゲゼルシャフト

代表者

ハインリッヒ・バウムガルトナー

訴訟代理人

商標管理人 鈴江孝一

主文

特許庁が、平成1年審判第1882号、同1883号各事件につき、いずれも平成6年4月18日にした各審決を取り消す。

訴訟費用は両事件につき被告の負担とする。

本判決に対する上告のための附加期間を30日と定める。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告ら

主文1、2項と同旨

2  被告

原告らの各請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は両事件につき原告らの負担とする。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯等

被告は、登録第2045109号商標(以下「本件商標1」という。)及び登録第2045110号商標(以下「本件商標2」という。)の商標権者である。

本件商標1は、別紙1に表示したとおりの構成よりなり、第12類「自動車用リム、自動車用スポイラー、その他本類に属する商品」を指定商品とし、1985年11月7日にドイツ連邦共和国でされた出願に基づく優先権を主張して、昭和61年3月11日に出願され、昭和63年5月26日に設定の登録がなされたものである。

本件商標2は、別紙2に表示したとおりの構成よりなり、第12類「自動車用リム、自動車用スポイラー、その他本類に属する商品」を指定商品とし、1986年9月1日にドイツ連邦共和国でされた出願に基づく優先権を主張して、昭和61年10月20日に出願され、昭和63年5月26日に設定の登録がなされたものである。

原告らは、平成元年2月7日、本件各商標につき被告を被請求人として無効審判の請求をし、特許庁は、本件商標1につき平成1年審判第1882号事件、同2につき同1883号事件として審理したうえ、平成6年4月18日、各事件につき、いずれも、「本件審判の請求を却下する。」との審決をし、その各謄本は、同年6月2日、原告らに送達された。

2  審決の理由の要点

上記各審決は、いずれも、各審判請求における請求人らの利害関係の存否につき、「請求人らが自動車用ホイールの卸売を行っている企業であることを格別否定するものではないとしても、これが具体的に、本件商標に基づく権利行使等が行われたとか、その他本件商標の存在により請求人の営業活動に障害が生じている等の事情を認めることができないばかりでなく、本件商標を『自動車用ホイール』の形状を表したものということができないから、これをもって自動車用ホイールの意匠が差押えられるものとも理解できないし、また、請求人が証拠方法として提出した各書証を徴しても、なお、これが格別『自動車用ホイール』の特定の意匠であるということができないから、本件商標が他人の意匠権に抵触するものとも認められない。してみれば、請求人は、本件商標の存在により何らの不利益を受けるおそれもないものというべく、結局、本件審判の請求について利害関係を有しない者といわざるを得ない。」とし、本件各審判の請求は、いずれも不適法な審判請求として、却下すべきものとした。

第3  原告ら主張の審決取消事由の要点

各審決は、原告らが本件各無効審判の請求につき利害関係を有するのに、これを否定し、各審判の請求をいずれも不適法としたものであるから、違法として取り消されなければならない。

すなわち、本件各登録商標は、いずれも、自動車用ホイールという商品の品質、形状を表す図形にすぎず(甲第2号証の2、3)、このようなものが法律的な保護を受けるためには、意匠登録出願をしなければならない。

そして、商標登録が商標法3条1項1号ないし3号の規定に違反してなされたときは、その登録無効の審判を請求するについて利害関係を要しないとするのが従来の定説である。けだし、普通名称又は品質表示の商標が登録されると商標権者以外の当業者が商標の使用をすることが不可能となり、産業の発達を妨げることになるからである。また、普通名称や品質表示は自他商品の識別力を有しないと同時に、何人も使用できるものとされているから、本件登録商標が除斥期間内に登録を無効にされないと、多数の当業者に不利益を与えることになる。

原告らは、いずれも、自動車用ホイールを製造販売する企業であって、本件各商標の権利者である被告と同業者の関係にあり、このような関係にある以上、本件各商標の無効審判の請求をすることにつき利害関係を有するというべきである。

第4  被告の反論の要点

本件各審決の認定判断は正当であり、原告ら主張の審決取消事由は理由がない。

商標登録の無効審判を請求することができるのは、その登録の存在によって受けるべき直接的、具体的な不利益が存在する者に限られるといわなければならない。

ところが、原告らが本件各審判事件で主張した利害関係は、本件各商標が自動車用ホイールの意匠であると同時にホイールの品質を表しているので、本件各商標の登録を無効にしなければ、原告らが被告から差止請求権の行使を受けることなどによって不利益を受けるおそれがある、ということであって、抽象的なものにすぎず、本訴においてもこの点において変わるところはない。

したがって、無効審判請求に必要な利害関係が認められないとして原告らの請求を却下した各審決には、何らの誤りもない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  原告らが本件各審判請求をするにつき法律上の利益を有する理由として主張するところは、判然としないうらみはあるが、その提出した証拠(甲第2号証の1ないし4)をも勘案して、その趣旨を善解すると、本件各商標はメッシュタイプの自動車用ホイールという商品の品質、形状を表す図形にすぎないために、自動車用ホイールを製造販売する企業である原告らが、自動車用ホイールの広告として、メッシュタイプの自動車用ホイールの形状を表す図形を雑誌等に掲載した場合、この行為につき、本件各商標に係る標章を商品に関する広告に付して展示し又は頒布する行為であって本件各商標権の侵害に当たるとして、被告から差止請求を受ける等のおそれがあり、したがって、無効審判を請求する法律上の利益があるというにあると認められる。

商標登録の無効審判は、これを求める法律上の利益を有する場合にのみ請求することができると解すべきであるが、上記のような法的紛争が生ずるおそれは一般的に否定できず、その抜本的解決は、本来、本件各商標に法定の登録無効事由があるかどうかの実体判断によってなされるものである。

このような場合、原告らに審判請求の法律上の利益があるとして実体判断をするのが、商標法の定める無効審判制度の趣旨に合致するというべきである。

これと異なり、原告らに審判請求の利益を認めなかった審決の判断は誤りというべきであるから、審決は違法として取消しを免れない。

2  よって、原告らの本訴各請求をいずれも認容することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の付与につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、158条2項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 芝田俊文)

別紙1

本件商標

〈省略〉

別紙2

本件商標

〈省略〉

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